CHAPTER2
火山噴火
01 火山の脅威
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2000年の有珠山の噴火によって生じた西山火口群
噴火前に迅速な避難が行われたことにより人的被害はなかったが,火山噴火による地殼変動や泥流等により,電気・水道・道路・鉄道などインフラは大きな被害を受けた。新たな観光名所「西山火口散策路」が誕生することとなる。
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磐梯山
1888年の噴火では山体が崩壊して北側の集落が埋没し,死者477名が生じる大災害となった。「殉難之精霊碑」は猪苗代町で一番被害の大きかった長坂集落に建てられたものである。集落の西側で噴火が発生し,多くの住民が東側の長瀬川方面に避難したが,岩屑なだれが長瀬川に入り泥流となって南に方向を変えたため,住民の半分以上が犠牲になった。
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浅間山
浅間山北麓ジオパークの景観をつくる浅間山は有史以来噴火を繰り返し,特に天明3(1783)年の噴火では二次被害も含め1,600名以上が犠牲となった。流れ出た溶岩が固まった「鬼押出し」と呼ばれる名勝地は,「火口で鬼が暴れて岩を押し出した」という当時の人々の印象によって名づけられた。
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空から見た冬の浅間山
浅間山は長野県と群馬県との境に位置する。標高2,568mの主に安山岩質の成層火山である。山体は円錐形で,上空から観るとカルデラの形態が明確である。噴火の可能性の高い活火山として知られており,写真でも中央火口丘,釜山火口(現在の火口)からの噴煙が見える。
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富士山北西山腹
標高2,300m~2,400m付近の「御庭火口列」と呼ばれる側火山群の堆積物である。かつての火口にあたる凹地と,溶岩のしぶき(スパター)が火口の周辺に降り積もってできた。御庭火口列は約2000年前の噴火によって生じた割れ目火口。富士山には側火山と呼ばれる,山腹や山麓で噴火が起きた時につくられた小火山の数が多い。
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雲仙普賢岳 平成新山
長崎県雲仙普賢岳にある,1990年の噴火によって誕生した平成新山。噴火時には火砕流が発生し,死者・不明者43名と言う甚大な被害が生じた。1995年まで火山活動は続き,この時に発達した溶岩ドームが平成新山と呼ばれ,現在は国指定の天然記念物となっている。
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桜島
大正3(1924)年1月12日の桜島噴火時に,神社の鳥居が火山灰等によって写真の高さまで埋められた。この噴火では,死者・行方不明者58名が生じ,日本の火山噴火では20世紀最大規模と言われている。島の南東方向と西方向に流出した溶岩によって,現在のように桜島と大隅半島とは地続きになった。
02 火山への畏敬と信仰
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冨士浅間(せんげん)神社の鳥居
世界文化遺産「富士山構成遺産」の1つである北口本宮冨士浅間(せんげん)神社の「富士山」が記された鳥居。古代では,富士山は神域として入山は禁忌であり,ここから御神体である富士山を拝み祭祀を行った。平安時代に山岳信仰が普及し,登山によって修行する修験道が広まり,富士講が発展するにつれ,人々は山頂を目指すようになった。
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富士山の山岳信仰
有史以来,信仰の対象として人々に崇められ,数多くの芸術作品に見られる富士山は,現在では世界文化遺産にも指定されている。四季ごとに異なる美しい景観は日本の象徴であり,貴重な歴史や文化とともに国際的にも高い評価を受ける。約10万年前に誕生し,繰り返された噴火によって現在の景観となった。
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磐梯山
荘厳に聳え立ち「天に通じる岩(磐)の梯子(はしご)」のように見えることから「磐梯山」と呼ばれるようになったといわれる。標高1,816mの活火山であり,山頂には磐梯明神が祭られている。鎌倉時代には修験道の山として栄えた。表磐梯の整った円錐形によって「会津冨士」と呼ばれる景観をなすが,裏磐梯の山体崩壊した景観も壮大である。
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鳥海山
山形県と秋田県の県境に位置し,鳥海国定公園に属する。標高2235mで日本百名山・日本百景の一つ。「出羽富士(山形からは庄内冨士)」とも呼ばれ,山麓周辺の人々の守り神として古くから崇められてきた。多くの噴火によって畏れられ,古くから山岳信仰の対象となった。中世後期以降修験道の修行場となり,鳥海山大権現(本地は薬師如来)として崇拝された。
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阿蘇神社
阿蘇神社は,神武天皇の孫神で阿蘇を開拓した健磐龍命(たけいわたつのみこと)をはじめ家族神12神を祀り,2000年以上の歴史を有している。阿蘇山火口をご神体とする火山信仰と融合し,肥後国一の宮として崇敬を集めてきた。「阿蘇神社」の参道は,神社に対して平行にのび,延長は阿蘇山の方向になっている横参道である。
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吾妻山・浄土平
浄土平は,磐梯朝日国立公園に属する標高1,600mの吾妻山の西に広がっている。この世のものとは思えない美しさから「浄土平」と名付けられた。吾妻山は「吾妻小富士」と呼ばれるように,富士山を意識させる整った山体だったが,明治26年(1893年)に大噴火した。
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岩手・浄土ヶ浜
三陸復興国立公園・三陸ジオパークの中心に位置する浄土ヶ浜は,天和年間(1681〜1683)に宮古山常安寺七世の霊鏡竜湖(れいきょうりゅうこ,1727年没)が,「さながら極楽浄土のごとし」と感嘆したことから名付けられたと言われている。4,400万年前にできた流紋岩が林立している宮古の代表的な景勝地である。
03 火山の恩恵
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支笏洞爺国立公園に属する洞爺湖,中島と羊蹄山の景観
国立公園はカルデラ湖である支笏湖と洞爺湖を中心に,活火山としての有珠山(うすざん)や羊蹄山(ようていざん)など多くの火山によって構成されている。日本を代表する火山群の景観を呈し,洞爺湖有珠山ジオパークにも認定されている。
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大沼国定公園に位置する標高1,131 mの成層火山,北海道駒ケ岳
1640年の噴火によって山体崩壊が生じ,標高1,700 mの円錐形の山体が,現在のような二つの馬蹄形(ばていけい)カルデラを持つ山体となった。山麓には堰止湖である大沼・小沼などの湖沼や,ラムサール条約に登録された湿地が広がっている。大沼には,岩屑なだれ堆積物が小島のように点在する。
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尾瀬沼
福島・群馬・新潟県境に位置する尾瀬沼は尾瀬沼は標高1,660mに位置し,数万年前の燧ヶ岳(ひうちがたけ)噴火時,岩屑なだれの発生により南東麓に形成された。燧ヶ岳はほぼ円錐形の成層火山である。最後の噴火として,洪水を起こした16世紀の水蒸気噴火が知られている。広大な国立公園の中に存在する尾瀬は日本有数の高層湿原でもある。
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田沢湖とたつこ像
秋田県に位置する「田沢湖」は日本百景の一つで,日本では19番目の広さをもち,水深は423.4mと国内最深である。180万年前から140万年前の爆発的噴火によるカルデラと考えられている。辰子姫をモデルにした「たつこ像」が湖岸に建ち,湖を際立たせている。辰子姫は永遠の若さと美貌を願い,竜になり湖の守り神となったと伝えられている。
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裏磐梯山銅沼(あかぬま)
磐梯山の北,裏磐梯側にある火口湖。磐梯山の生々しい崩落の跡が目前に迫る。噴火壁が噴火時のまま残り,噴気も上がっている。沼の水は強酸性で,鉄やアルミニウム,マンガン等が溶け込み,湖底の泥が水酸化鉄を含んで名前の通り赤く見える。銅沼の景観は,自然のダイナミクスと美しさの両面を感じる。
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別府地獄
海地獄は別府温泉で多様な景観を示す自然湧出の源泉の一つである。観光施設としての「別府地獄めぐり」では,100 度近い源泉を見ることができる。別府地獄最大の海地獄は,867(貞観9)年,鶴見岳噴火時に形成されたと言われる熱泉である。コバルトブルーの池色は,温泉中の成分である硫酸鉄が溶解しているためである。
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世界遺産 石見銀山
島根県大田市にある,戦国時代後期から江戸時代前期にかけて最盛期を迎えた日本最大の銀山(現在は閉山)。当時日本は世界の銀の約3分の1を産出したとも推定されるが,石見銀山がその大部分を占めたとされる。2007年に世界遺産に登録された。龍源寺間歩(りゅうげんじまぶ)は,現在も見学できる代表的な坑道である。
04 火山活動と人間生活
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福島県「塔のへつり」
「へつり」は,会津地方の方言で「険しい断崖」を意味する。第四紀の火山活動によって,凝灰岩・凝灰角礫岩などが堆積され形成された後,侵食等の働きで柱状の断崖がつくられた。軟らかい凝灰岩が侵食されたところに狭い幅を持った道になっている。国の天然記念物に指定されている。
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江戸城虎ノ門石垣
江戸城の石垣は伊豆半島から運搬された凝灰岩や安山岩であり,火山噴出物や火山岩から成る。この石垣は,1636(寛永13)年,佐賀藩主鍋島勝茂らによって江戸城の総仕上げとしてつくられたと言われ,石垣表面には石を割った楔跡(くさびあと)や担当大名の刻印が見られる。
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磐梯山美祢の大石
磐梯山が大噴火した1888年,火口の中にあった安山岩の岩塊が噴き出した泥流に乗って運ばれた。岩石の大きさは,長さ9.4m,幅6.1m,高さ3.0mもあるが,その重さから年々沈下しており,現在見られる岩石の高さは元の約2分の1と考えられている。国の天然記念物に指定されており,近辺には現在でも巨石が点在する。
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東尋坊(福井県坂井市)
越前加賀海岸国定公園に位置し,国の天然記念物・名勝に指定されている。東尋坊は日本列島形成時でもある約1,300~1,200万年前(新第三紀中新世)の火山活動により,マグマが堆積岩中に貫入した火山岩が基盤であり,その後,波の侵食を受け,海食崖を呈する。約25mの崖に遊歩道がつくられ,遊覧船もあり,多くの観光客が訪れる。
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北海道白滝ジオパーク八号沢露頭
日本最大級の質・埋蔵量の白滝黒曜石が産出される露頭。約220万年前の火山活動で流紋岩の一種である黒曜石が形成された。遠軽町(えんがるちょう)の重要文化財「北海道白滝遺跡群出土品」は,旧石器時代の黒曜石からつくられた遺物として初の国宝に指定されている。
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屯鶴峰(奈良県香芝市)
新第三紀の千数百万年前に,二上山(にじょうさん)の火山活動によって火砕流や火山灰などが凝灰岩等を形成し,第四紀の地殻変動や侵食作用等によって現在の景観ができた(県指定天然記念物)。凝灰岩は古墳の石棺や寺院の基壇などに利用された。二上山の火山活動はサヌカイトやガーネットを含んだ金剛砂(こんごうしゃ,研磨剤のこと)も産出し,人間に活用されてきた。
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日本三古湯の有馬温泉「銀の湯」(兵庫県神戸市北区)
「金の湯」とともに有名。この地域は有馬-高槻活断層帯の影響などで,透水性の高い断層破砕帯を流路として温泉水が噴出している。お湯は元来透明だが,空気に触れると変色する含鉄塩化物泉(赤湯)は「金泉」,それ以外の透明な温泉は「銀泉」と呼ばれている。
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藤岡達也 TATSUYA FUJIOKA
滋賀大学大学院教育学研究科教授。東北大学災害科学国際研究所客員教授。博士(学術)。専門は防災教育,環境教育,科学教育。一般社団法人防災教育普及協会理事・日本地学教育学会副会長。国連防災世界会議及び国連国際防災戦略(UNISDR)防災グローバルプラットフォーム等でも講演。
【より詳しく勉強したい方へ】 藤岡達也著書・編著のおすすめの本
「絵でわかる日本列島の地震・噴火・異常気象」(2018、講談社)
「絵でわかる日本列島の地形・地質・岩石」(2019、講談社)
「絵でわかる世界の地形・岩石・絶景」(2020、講談社)
「SDGsと防災教育—持続可能な社会をつくるための自然理解」(2021、大修館書店)
「1億人のSDGsと環境問題」(2022、講談社)