CHAPTER3
風水害
01 河川氾濫
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平成16年新潟・福島豪雨
「平成16年7月新潟・福島豪雨」後の市内の状況。7月13日信濃川水系の五十嵐川で破堤,新潟県三条市等を中心に広範囲で浸水した。濁流が入り込んだ市街では,水が引いた後に泥水の浸かった家財が住居前等に積み上げられた。車から水の浸かった高さを鮮明に読み取ることができる。この水害で16(内,新潟県では15名)名の犠牲者が生じた。
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平成16年新潟・福島豪雨
平成16年7月新潟・福島豪雨は,日本における最大日降水量の記録を上回った。写真は破堤した河川の水に長時間浸かった教室。黒板からは水位が読み取れ,木造の床は水を吸収して膨張し飛び上がっている。発生が7月13日ということもあり,校舎が使用できなくなった学校はそのまま夏季休暇となった。休みの間に床面は改修工事され,学校は二学期から再開された。
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平成16年新潟・福島豪雨
水害後に清掃や廃品となった物品の運び出しなど,学校の復旧に取り組むボランティア。この水害では,住家全壊70棟,住家半壊5,354棟,一部破損94棟,床上浸水2,149棟,床下浸水6,208棟の被害のほか,国立学校1校,公立学校53校,私立学校7校に被害が生じた。土砂とゴミを合わせた災害廃棄物の発生総量は,約6万t(11万m3)に達していた。
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福知山市治水記念館
福知山市治水記念館は,明治10年代に建てられた町家を改修した建物。中庭には由良川の氾濫による過去の浸水水位を示すモニュメントがある。市中心部は由良川が東西に流れているため,頻繁に水害に襲われてきた。2004年(平成16年)の台風23号水害を契機に,福知山の水害に対する取り組みの一環として,水害を伝える施設の設置が進められることになった。
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砂防の父「赤木正雄展示館」
砂防事業の推進に尽力した「砂防の父」と呼ばれる赤木正雄氏の生家(赤木正雄展示館)に備わっている「川舟」。頻繁に生じた円山川の洪水時には,水没した民家に船で水や食料を運んでいた。赤木正雄の偉業・功績と砂防の役割を広く伝えるため,2013年兵庫県豊岡市に「赤木正雄展示館」が開館した。
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2011年紀伊半島大水害
2011年に起きた紀伊半島大水害での最高水位を示したモニュメント。熊野川洪水時の水位が8.27mであることを示す。熊野川は流域に水害を頻繁に起こした。特にこの年の台風12号では,一部地域で1時間の雨量が2.000㎜を超えるなど記録的な豪雨となった。その結果,死者72名,行方不明者16名,床上浸水2,162戸,床下浸水1,160戸の甚大な被害となった。
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平成27年9月関東・東北豪雨
水害後に河川改修された様子。堤防の嵩上げと共に遊水地が確保された。茨城県常総市付近では,鬼怒川が数か所で溢水・破堤し,結果的に直接死2名,災害関連死12名などの人的被害のほか,全半壊家屋5,000棟を超える甚大な被害が生じた。「平成27年9月関東・東北豪雨」と呼ばれ,茨城県の15名以外にも,栃木県,宮城県を含め計20名が犠牲となった。
02 台風と気象災害
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2018(平成30)年台風21号
2018年9月台風21号によって交通の障害となった倒木。台風21号は「非常に強い勢力」で近畿地方を通過した。「非常に強い勢力」で上陸した台風は25年ぶりであった。近畿地方を中心に最大瞬間風速50m/sを超える猛烈な風が観測された。各地で屋根や窓ガラスの破損,大規模な停電が発生するなどの被害が生じた。
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1947・8年カスリン・アイオン台風
岩手県JR一ノ関駅前に設置されカスリン台風,アイオン台風による洪水時の水位を示す高さ3m・幅11mの浸水表示板。一関地域では1947年のカスリン台風で死者100名,1948年のアイオン台風では死者・行方不明者473名の犠牲者が生じた。2年連続して磐井川が決壊し,市街地が水没したことによる。磐井川は同市を流れる北上川支流の一級河川である。
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屋久島国立公園
屋久島を頻繁に襲う暴風と,土石流によってつくられた白谷雲水峡の景観。標高600m以上に位置し,暖かく湿潤なため苔が繁茂する森林と,基盤の花こう岩が侵食され土石流として流れてきた渓流の両方を観察できる。屋久島の自然休養林の1つで,屋久杉と照葉樹の混生した森林が広がり,台風による倒木が多い。屋久島国立公園は世界自然遺産に登録されている。
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1666年越後高田地震
豪雪地の高田城。寛文5年12月(1666年2月),越後高田地震が発生した。地震は越後高田の高田城及び城下町(新潟県上越市)の侍屋敷や町家などが甚大な被害を受け, 1,000名を超える犠牲者が生じた。地震発生時,約4.5mも積雪していたとされ,屋根からの落雪のほか,火災からの避難では雪壁が障害になるなど,豪雪地帯特有の犠牲者も発生したと捉考えられる。
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1927年の豪雪記録
日本有数の豪雪記録のモニュメント。新潟県上越市板倉区は特別豪雪地帯に指定され,山間部の柄山集落では1927年2月に818 cmの積雪深を記録した。この写真はその記録を示している。モニュメントには登ることができ,裏は滑り台になっている。なお,積雪記録世界一は,1927年に滋賀県の伊吹山で記録された11m82cmである。
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佐渡演習林のスギ林
標高900mに位置する佐渡演習林の芸術的な杉の景観。日本海からの湿った風の影響もあり,霧が頻繁に発生する標高帯(雲霧帯)に形成される日本固有の森林群集である。新潟大学佐渡演習林のスギ林は,総面積・森林の連続性・自然度の高さなどの点から国内有数。佐渡最大級(直径約200cm)の大王スギを擁する群集は,学術的価値も高い。
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流氷
流氷と砕氷船。流氷は,冬季にオホーツク海の最北西部沿岸であるロシア・アムール川河口でできた氷が南下して形成される。海水は厳しい寒気に吹き付けられ冷却され,氷晶ができ,海面を覆う氷に成長する。氷は強い北西の季節風と東カラフト海流により,成長しながらオホーツク海を南下し,1月下旬~2月上旬に北海道の沿岸へ流れ着く。
03 土砂災害
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平成26年8月豪雨
広島市では,77名もの犠牲者を出す甚大な土砂災害が発生した。線状降水帯が発生し,広島市安佐南区や安佐北区では,1時間雨量87mm~121mm,3時間降水量は200mmを超えた。花こう岩地帯の地質や地形の影響もあり,大規模な土砂災害が166か所(うち土石流107か所,がけ崩れ59か所)に発生した。
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平成30年7月豪雨
2018年7月に広島で発生した土石流による砂防堰堤の破壊状況。梅雨前線に伴う豪雨は,48時間降水量が412mm,388mmを観測した。広島市の安芸区,東広島市などでは豪雨により土砂災害が生じた。県内で1,242箇所の土石流やがけ崩れが発生し,犠牲者126名,行方不明者5名の他,家屋の全壊1,152棟,半壊3,614棟などの甚大な被害となった。
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平成30年7月豪雨
何度も発生した土石流堆積物。東広島市黒瀬町周辺の全体的に緩やかな斜面から,場所によっては少し傾斜を持った斜面までの間に,多数の崩壊や土砂移動が発生した。土石流が生じやすい場所では,それまでも繰り返して土石流が発生しており,谷部分を形成する堆積物は,砂礫の状況から土石流堆積物であることが読み取れる。
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平成16年中越地震
平成16年中越地震時での斜面崩壊。中越地震により,旧山古志村(やまこしむら)周辺では地すべり・斜面崩壊が多発した。従来から新第三紀砂泥岩層の堆積岩が原因となる地すべりが多発していた地域である。国交省によると,本地震では崩壊土砂量100万m3以上の大規模な崩壊・地すべりが12箇所で発生。崩壊土砂量は合計約1億m3と推定されている。
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白米水田(世界農業遺産)
地すべり地形としての白米千枚田の景観。石川県輪島市白米町にある棚田であり,海まで連続する田は日本の棚田百選や国指定文化財名勝に指定されていたが,2024年の能登半島地震で多くの亀裂が生じた。地質は,新第三紀中新世後期(約1100万年前)の珪質泥岩であり,西側は古第三紀漸新世(約3000万年前)以降の安山岩などの溶岩・火砕岩である。
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悲しめる乙女の像(蛇ぬけの碑)
長野県木曽郡南木曽町(なぎそまち)「悲しめる乙女の像(蛇ぬけの碑)」。1953年7月20日の土石流犠牲者の霊を慰め,災害の教訓を後世に伝えることを願って建設された。「蛇抜け(じゃぬけ)」とは土石流及びその被害を意味する。土石流を発生しやすい地域の地質は主に中生代白亜紀の花こう岩から構成されている。崩壊しやすいのは日本の他地域の花こう岩と同様である。
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2021年熱海市伊豆山土石流
2021年7月に発生した静岡県熱海市土石流災害。この災害による被害は,犠牲者28名,住家被害は98棟に及ぶ大災害となった。この地域は土砂災害警戒区域に指定されていたが,豪雨や地形に加え,被害の拡大原因として上流山間部の違法盛土の崩壊,国や自治体の盛土規制と大量の違法盛土の問題が明確になり,盛土規制の強化へと繋がった。
04 治水・砂防
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国営木曽三川公園
木曽三川の分流工事は近世から続けられ,1887~1912年にかけては明治政府が国家予算の約12%を投じて河川改修工事を行った。この明治の改修により三川の分流が完成し,木曽三川の下流部はほぼ現在の形となった。お雇い外国人デ・レーケが木曽三川を調査し,各河川の現状分析と河川改修の考え方や方策をまとめたことから始まる。
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加治川治水ダム
1966年7.17下越水害,翌年8.28羽越水害を受け,加治川の治水計画が見直され新たに建設された加治川治水ダム。有効貯水量1,800万m3の規模を持ち,機能は治水だけの防災専用ダムである。1969年から6年間を費やし,1974年に完成した。加治川治水ダムは通常時はダム湖内に公園が設置され,流域住民の憩いの場として活用されている。
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庭園砂防施設
1945年9月枕崎台風後につくられた紅葉谷川庭園砂防施設。日本三景の1つである厳島神社(いつくしまじんじゃ)の背後を流れ下る紅葉谷川に築かれ,枕崎台風で被災した「史跡名勝厳島」の災害復旧事業として1950年に竣工。砂防と庭園の専門家の協働により,土石流によって堆積した巨石を利用しながら,紅葉谷公園の風景や厳島の歴史的風致との調和が図られた砂防施設である。
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内閣府中央防災会議
内閣府中央防災会議・総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ。2014年の広島土砂災害等を教訓とし,土砂災害に対する脆弱性を検証し,人命の保護や重要な機能の維持などの方策強化に向けた総合的な対応策を検討する,中央防災会議「防災対策実行会議」の下に設置された。2015年6月に「総合的な土砂災害対策の推進について」が公表された。
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広島市豪雨災害伝承館
2014年の広島土砂災害の教訓を伝える広島市豪雨災害伝承館。77人が犠牲になった災害の記憶や教訓を継承するために,災害から10年近く経って被災地に開館した。広島土砂災害に特化した伝承施設で,被災者や地域の要望を踏まえて市によって建設された。体験者の証言が上映されたり記載されたりしており,当時が生々しく蘇る。防災・減災,復興教育の拠点でもある。
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本宮砂防堰堤
常願寺川の砂防と堰堤。常願寺川は河口の富山湾から源流までわずか56km。約3000mの標高差を流れ下る常願寺川は,世界的に見ても有数の勾配を持つ急流河川である。古くから洪水氾濫が多発し甚大な被害が生じた。本宮砂防堰堤は2年かけ1937年に完成した。高さ22m,長さ107.4mで,約500万m3という日本最大級の貯砂量を持つ。
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砂防堰堤
広島土砂災害後につくられた堰堤及び砂防ダム。多くの犠牲者が生じたこの地域は,近年開発され住宅地も多い。新たな悲劇を防ぐために106基もの堰堤や砂防ダムが建設されている。自然条件として,瀬戸内海からの暖かく湿った空気が中国山地にぶつかり,上昇気流が連続して発生し,停滞する「線状降水帯」が生まれやすく,花こう岩質の山体に影響を与える。
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SDGsの達成に欠かせない自然災害の削減を,防災・減災・復興の事例から考えていくためのデータベースです。日本で起きたさまざまな自然災害に対する取り組みなどから,なにができるかを考えるヒントをお届けします。
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藤岡達也 TATSUYA FUJIOKA
滋賀大学大学院教育学研究科教授。東北大学災害科学国際研究所客員教授。博士(学術)。専門は防災教育,環境教育,科学教育。一般社団法人防災教育普及協会理事・日本地学教育学会副会長。国連防災世界会議及び国連国際防災戦略(UNISDR)防災グローバルプラットフォーム等でも講演。
【より詳しく勉強したい方へ】 藤岡達也著書・編著のおすすめの本
「絵でわかる日本列島の地震・噴火・異常気象」(2018、講談社)
「絵でわかる日本列島の地形・地質・岩石」(2019、講談社)
「絵でわかる世界の地形・岩石・絶景」(2020、講談社)
「SDGsと防災教育—持続可能な社会をつくるための自然理解」(2021、大修館書店)
「1億人のSDGsと環境問題」(2022、講談社)